破産手続の流れが実際にはどのように進んでいくのか、やむを得ず会社の破産手続きを決心した経営者が、弁護士事務所に相談に行くところから,保証債務等の免責を受けるまで,手続きの各局面にて,現場ではどのようなことになっているのかを,日比谷ステーション法律事務所がこれまで取り扱ってきた案件を踏まえつつ解説します。
なお,日比谷ステーション法律事務所にて取り扱う破産申立て案件の多くは東京地方裁判所へ申請するものです。他の裁判所では異なった運用となっている可能性があること,また,東京地方裁判所の運用も,更新日現在のものであることを予めご承知おきください。
会社(法人)の破産に関する弁護士への相談
まず,会社の経営の継続が困難だと判断した場合には,破産申立ての代理を依頼するために,弁護士事務所に相談に行くことになります。法律相談料を無料としている弁護士事務所も増えてきていますので,予約をする際に確認しておくとよいでしょう。また,決算書類等,持参すべきものについても,案内がなければ併せて確認しておくべきでしょう。
日比谷ステーション法律事務所でも,初回法律相談料は無料とさせていただいております。また,お問い合わせ時に会社の状況等について簡単な聴き取りをさせていただいた上,ご持参をお願いする資料についてもご案内しております。
さて,弁護士への相談時には,会社の状況等について聴き取りをした上で,破産申立予定日を決定し,それまでに必要な準備や必要な事務処理を整理します。具体的には,会社の代表者が揃える資料の説明や,債権者や従業員への対応,資産の管理・処分等をどのようにすべきか検討します。また,申立費用の見積もりもされるのが通常です。
このような法律相談の内容を踏まえ,依頼する場合には,委任契約をすることになります。
依頼後は,申立てまで,弁護士と連絡を取り合い,必要な準備を進めていくことになります。その際の役割分担をどうするかについては,事前にしっかり確認しておくべきでしょう。破産申立ての準備は,一切を弁護士に任せられるというケースはほとんどなく,会社の代表者等に協力いただく作業も意外と多いところ,この協力が得られないと,弁護士としても破産申立てをすることができないからです。
日比谷ステーション法律事務所では,資料の作成については,法律相談時に可能な限り必要な情報を聴き取り,弁護士が作成するようにしておりますが,本人が作成した方が効率的なものや,その他の事務処理で弁護士が対応することが難しいものについては,ご依頼者様にお願いしております。その場合でも,連絡は密に取り合うようにして,迅速・適正な破産申立ての実現に努めております。
会社(法人)の破産申立てまでに準備すること
1.すでに営業を廃止している会社の準備
(1)受任通知
会社及び代表者等の債権者に対して,弁護士が債務整理を受任した旨の通知を送ります。これにより,債権者は会社及び代表者等に対して直接取立てをすることができなくなり,以後は弁護士が窓口となって対応することになります。
この受任通知については,個人破産のケースとは異なり,会社破産のケースでは,受任通知を直ちにしなくてもよいものとされています。会社には債権者や取引先,従業員等多くの利害関係人がいるため,破産申立前に受任通知をすることで混乱が生じ,迅速・適正な申立てができなくなるおそれがあるからです。もっとも,既に営業を廃止した会社については,このような利害関係人がほとんどいないのが通常であるため,債権者からの取立てから解放されたいという代表者等の要請を優先し,速やかに受任通知をすることが多くあります。
ここで注意が必要なのが,債権者でもある銀行に預金がある場合です。ここに受任通知をすると,口座が直ちに凍結され,預金を下ろすことができなくなるからです。そうすると,申立費用を準備できなくなり,個人の資産から会社の申立費用も工面しなければならないという事態にもなりかねません。そこで,申立前の受任通知を希望される場合には,可能な限り預金を下ろしておくことをお願いしております。
(2)申立費用の準備
この点については,破産申立ての費用で詳しく解説しましたので,そちらをご覧下さい。
(3)書類の準備
申立前に必要な書類は,こちら(破産申立に必要な書類・資料)に挙げたとおりです。このうち,収集書類については,必要なものが会社によって異なる他,どうしても用意できないものがあるという場合の手当てについても検討致しますので,弁護士にご相談下さい。また,記入書類については,原則として代表者等に記入をお願いし,弁護士が確認,修正した上で申立てをするという流れになりますが,どの書類にどの程度の記入をお願いするかはケースバイケースですので,この点も弁護士と相談の上進めていただくことになります。
日比谷ステーション法律事務所では,書類の収集・作成にあたり不明な点がある場合には,その都度電話やメールで担当弁護士に相談していただける体制を構築しておりますのでご安心下さい。
既に営業を廃止した会社の場合には,上記の準備が整い次第,弁護士が裁判所に出向き,破産申立てをします。東京地裁の場合には,申立後速やかに裁判官と申立内容について打合せを行う運用となっています(即日面接)。この即日面接に代表者等が出席する必要はありません。
2.営業中の会社の準備
営業中の会社のケースは,上記すでに営業廃止している会社の準備に加え,事案に応じてさらに以下のような準備が必要になります。
(1)申立てまでのスケジュール設定と申立費用の確保
営業中の会社は,債権者の他にも取引先や従業員等,多くの利害関係人がいるのが通常です。そこで,円滑な手続遂行のために,仕掛かりの仕事をどこまで進めるか,仕入れを停止するかといった,申立てまでのスケジュールをしっかりと策定する必要があります。
特に気を付けなければいけないのは,租税公課の滞納がある場合です。裁判をすることなく,いきなり会社の財産を差し押さえられるおそれがあるからです。そこで,この場合には,なるべく早い時期に申立てができるようスケジュールを調整するとともに,預金や売掛金等,差押えが容易な財産を,現金化して申立代理人に預ける等して,差押えを受けないようにし,申立費用を確保する措置をまず優先してとるようお願いしています。
日比谷ステーション法律事務所が扱った案件でも,ギリギリのところで税務署による差押えを回避し,申立費用を確保できたことがありました。
(2)会社財産の保全
会社の財産は,破産手続において破産管財人によって換価され,債権者への配当の原資となるものです。したがって,無関係の第三者はもちろん,一部の債権者による抜け駆け的な回収として持ち去られたりすることがないよう,会社財産の保全を図る必要があります。
具体的には,事務所や店舗,工場等の会社の不動産に厳重に施錠する等して,占有や内部の動産の持出しを防ぐ措置をとることになります。この点,設備が広大だったり,財産が散在していたりする等,保全が困難であるにもかかわらず,十分な人手を確保できない場合等には,申立代理人と十分に打合せをし,どの程度まで保全措置をとっておくべきか,事案に応じて慎重に検討されるべきです。
(3)従業員への対応
会社に従業員がいる場合には,会社の破産によって就労の場が失われることで,生活の基盤に大きな打撃を被ることになります。そこで,従業員への対応は,特に慎重を期すべきです。この点,従業員を解雇すべきか,未払賃金や雇用保険の処理等については,従業員の取り扱いをご参照下さい。特に,会社に残っている現金にある程度余裕があり,未払賃金や解雇予告手当の支払いを検討する場合には,管財予納金の確保や他の債権者とのバランスといった問題点もあることから,申立てまでのスケジュール策定の際に念入りに打合せをしておく必要があります。
また,営業中の会社において,実際に従業員に破産申立ての方針を告げるタイミングとしては,混乱を防止するため,申立ての直前又は直後とするのがセオリーといえます。その際,従業員の方々の困惑や反発に対しどのように対処すべきかについても,十分に検討しておくべきです。当事務所では,経営者のご意向に従い,経営者に同行し,また,場合によっては,経営者に代わって,弁護士が従業員の方々への説明,対応を行っております。
(4)申立書類の作成
破産を申し立てるには,所定の申立書類を作成する必要があります。一般的な必要書類は,破産申立に必要な書類・資料をご参照下さい。これらの内,事案によっては不要なものがある一方,営業中の会社においては,別途資料を用意すべき場合もありますので,どのような資料を準備すべきかについて,ご相談時に個別にご案内しております。
書類・資料の作成に当たっては,経営者ご自身や,会社の事情に精通した役員・従業員のご協力をお願いしており,ご依頼時に書類のひな形をお渡しし,これを元に草稿を作成していただいた上,担当弁護士が修正して裁判所に提出するという流れで行っております。もっとも,何を記載するのか分かりにくかったり,文章の作成が苦手だったりする方については,なるべくご負担にならないよう,担当弁護士が適宜サポートしておりますのでご安心下さい。
また,会社の財産等について特に調査が必要な場合には,弁護士が会社に訪問して写真撮影や事情聴取を行い,報告書を作成させていただくこともあります。営業中の会社において,破産申立ての準備を秘密裏に進める場合には,従業員や取引先等に気付かれないよう,十分に打合せた上,調査させていただくことになります。
会社(法人)破産申立て後の手続
1.申立~破産開始決定
破産申立ては,弁護士のみで行います。東京地裁では,申立代理人として弁護士が選任されている事件では,申立当日または3日以内に担当裁判官が面接を行い,破産開始決定がなされるという運用(即日面接)をとっています。当事務所では,申立書類を提出後,直ちに面接をしてもらい,事案毎に適した時期に破産開始決定をしてもらうよう交渉しております。具体的には,税金の差し押さえのおそれがある等特に緊急性のある場合には当日に,また,完成間近の仕掛かり中の仕事がある場合には,これが完成するタイミングで,開始決定をしてもらいます。
2.破産管財人との面接
破産申立てが受理されると,通常は当日中に管財人候補者となる弁護士が内定し,数日以内に,管財人候補者,申立人及び代理人の三者での打合せ(管財人面接)が行われます。管財人面接は,多くのケースでは,管財人候補者の事務所で行われます。場所が分かりにくい場合には,現地集合ではなく,一度当事務所までお越しいただき,担当弁護士と同行するようにしています。
管財人面接では,経営者からの聴き取りが行われますが,事前に申立書類の副本を送付していますので,これを補充するかたちで質問されることになります。特に,管財人に就任後,緊急に処理しなければならない事項がある場合には,その段取りを十分しておきます。また,会社の通帳,会社の建物や自動車の鍵,保険証券等も,なるべく持参して引き継ぎます。
3.破産開始決定後,債権者集会まで
破産開始決定後,管財人が事務処理を進める中で,さらに事情の聴取や資料の補充といった協力を求められることがあります。この連絡は,申立代理人を通すこともありますが,経営者の方に直接されることもあります。管財人からの指示に不明な点がある場合等には,適宜担当弁護士に相談していただいた上で対応するとよいでしょう。
債権者集会
破産申立てから,3~4か月後に期日が指定されます。
東京地裁では,大部屋の中に,番号が振られた複数の会場(テーブルと座席)が設営されており,他の事件の当事者も一緒にこの大部屋に入って待機し,申立人の名前と会場の番号が読み上げられたら,その会場に移動するという流れで行われるのが通常です。ただし,規模の大きい事件や,利害関係人が多数の事件等,事案によっては別の法廷や,上記の大部屋を貸し切りにした状態で行われることもあります。
“債権者”集会とはいうものの,実際に債権者が出席しないケースも多くあり,その場合には,管財人からの事務処理の報告も簡潔になりますので,ものの数分で終わることもあります。これに対し,特に個人の債権者が出席するようなケースでは,経営者責任を問うような質問がなされることもありますので,事案によっては対応を準備することも検討されます。
第1回債権者集会までに,管財人が処理すべき業務(主に会社財産の換価)が全て終了している場合には,経営者個人についての免責について管財人から意見が述べられ,これを踏まえて裁判所が免責許可決定をすることになります。これに対し,第1回債権者集会の時点で残務がある場合には,残務処理にかかる時間に応じて,次回期日が指定され,それ以降も同様となります。この場合,経営者個人の財産換価が全て終了していれば,免責手続が先立って行われることもあります。
4.免責許可決定
管財人からの意見が述べられてから約1週間で,裁判所から免責決定の結果が事務所宛に郵送されます。免責許可決定は,官報で公告されてから2週間後に確定します。これで手続が全て終了となりますので,免責許可決定書の原本やお預かりしていた書類等をお返しすることになります。
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