ご相談の時点で,近日中に資金繰りができなくなる見込みであるケースや,既に一部未払いが生じているケースも珍しくありません。このようなケースでは,破産申立費用に充てる十分な現預金がないのが通常です。そこで,次のような手段により費用を確保できないか検討することになります。
- 顧客・得意先からの支払いを受ける一方,借入金や買掛金等の支払いを止めて,現金残高を増やす(キャッシュフローの調整)
- 在庫商品や車両・設備等の資産を売却する(資産の現金化)
詳細は次のとおりです。
キャッシュフローの調整
会社の営業を継続する限り,賃金,買掛金,借入金の返済,税金・社会保険料等は全て支払期限どおり支払う必要があります。これに対し,破産申立ての準備をする段階では,営業の継続は予定されていないため,これらの支払いを止める一方で,日々支払われる現金や売掛金等の債権を回収することで,現金残高を増やすことができます。これにより,会社が自転車操業状態に陥っているケースでも,破産申立費用を確保できる場合があります。
このようなキャッシュフローの調整により破産申立費用を確保するに際しては,次の点に注意する必要があります。
偏頗弁済をしない
支払いを止める際に,一律に支払いを停止するのではなく,一部の債権者にだけ支払うことは偏頗弁済となります。例えば,親族からの借入金や,長年付き合いのある外注先の買掛金等がある場合,特別扱いをしたくなるところですが,後の破産手続上,非常に苦しい立場になりますので,厳に慎まなければなりません。ただし,従業員に対する賃金や解雇予告手当の支払いについては,優先して支払うことができる場合もあります。
債権者からの対抗措置に備える
漫然と支払いを止めるだけでは,債権者からの対抗措置を受け,かえって状況を悪化させてしまうおそれがあります。例えば,税金・社会保険料を滞納している場合には,滞納処分として会社の財産を差し押さえられてしまうことがあります。また,銀行からの借入金の返済を怠ることにより,同じ銀行に預金がある場合,これが相殺されて引き出せなくなってしまいます。そこで,このような対抗措置に対する手当を事前に検討しておく必要があります。
また,その他の債権者との関係でも,取付騒ぎのような混乱が生じることで,事実上,円滑な破産申立てに支障をきたすことになりますので,事業継続中の会社の場合は特に注意が必要です。
資産の現金化
会社の資産は破産手続の中で破産管財人により換金されることになりますが,破産申立てのために必要な現金がない場合には,破産申立前に自ら換金し,申立費用に充てることを検討します。注意すべきポイントは次のとおりです。
不当に安く売却しない
会社の財産を相場よりも不当に安く売却してしまうと,会社の財産を流出させたとして問題となります。そこで,売却に際しては,相場を調査した上,複数の業者から見積もりをとり,最も高く売れる相手と取引をする等して,売却金額の妥当性を担保する必要があります。
現金化までの期間を計算に入れる
現金化する財産によっては,手元に現金が入ってくるまで相当の期間を要する場合があります。例えば,保険を解約する場合に,解約日から返戻金が振り込まれるまでにはある程度の期間がかかるのが通常です。
事前に弁護士に相談する
上記のように,破産申立ての準備の一環として費用を確保するには,専門的な知識が必要となります。不適切な方法をとってしまうと,利害関係人にかけてしまう迷惑が大きくなってしまうばかりでなく,経営者個人の免責にも影響するおそれがあります。そこで,上記1,2の費用確保の手段を実際にとる前に,弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士費用は安い方がいい?
会社に残っている現預金は,申立代理人の弁護士費用を控除した残額が全て破産管財人に引き継がれることになります。そうすると,経営者個人の自由財産(破産後も持ち越せる財産)から費用を捻出する場合でない限り,経営者の経済的再出発という観点からは,弁護士費用の金額は重要でないといえます。迅速・適正な会社破産の申立てを行うには,弁護士費用の金額よりも,経験・実績や弁護士・スタッフの体制を重視すべきでしょう。
日比谷ステーション法律事務所
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